法務法人(有限)地平

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【経営権紛争・株主エンゲージメント対応】韓国における改正商法の紹介及び分析

2025.07.11

Ⅰ. はじめに 
 
<div style="text-align: justify;">韓国における改正商法が2025年７月３日に国会本会議で可決され、国務会議を経て近日中に公布される見込みです。 
 
改正商法は、①取締役の株主に対する忠実義務の明文化、②電子株主総会制度の法的根拠整備および大規模上場会社における電子株主総会併用開催（日本におけるハイブリッド出席型バーチャル株主総会と同趣旨）の義務化、③上場会社における社外取締役の呼称の変更（「独立取締役」）および選任義務比率の引き上げ（4分の1→3分の1）、④監査委員の選任・解任時における最大株主（筆頭株主）の議決権制限（いわゆる3％ルール）の強化を骨子としています。 
 
以下では、改正商法の主要内容、波及効果および対応方針を説明いたします。</div>
 
 
Ⅱ. 取締役の株主に対する忠実義務の明文化 
 
1. 改正内容 
 
<table cellpadding="8px" style="width:100%; text-align:center; border:1px solid #bbb; border-collapse:collapse;" width="100%">
	<tbody>
		<tr>
			<th style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); background-color: rgb(242, 242, 242);border-top: 2px solid #cc0000; line-height: normal; padding-right: 12px;" width="50%">現行規定</th>
			<th style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); background-color: rgb(242, 242, 242);border-top: 2px solid #cc0000;line-height: normal; padding-right: 12px;" width="50%">改正商法</th>
		</tr>
		<tr>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第382条の3（取締役の忠実義務） 
			取締役は法令および定款の規定に従い、会社のためにその職務を忠実に遂行しなければならない。</td>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: left;" valign="top">第382条の3（取締役の忠実義務等） 
			① 取締役は法令および定款の規定に従い、会社および株主のためにその職務を忠実に遂行しなければならない。 
			② 取締役はその職務を遂行するに当たり総株主の利益を保護し、全体株主の利益を公平に待遇しなければならない。</td>
		</tr>
	</tbody>
</table>

<div style="text-align: justify;"> 
韓国においては、1998年の商法改正により取締役の忠実義務が新設され、現在に至っています。 
 
会社の利益と株主の利益が一致する場合、取締役が会社に対する忠実義務を果たすことにより、結果として株主も保護されます。しかしながら、会社の利益と株主の利益が必ずしも一致しない状況——企業買収・合併、分割、株式交換、第三者割当増資など、会社再編の局面——においては、大株主の利益を優先し、少数株主の権益が排除されるなど、株主間利益相反の問題が提起されてきました。商法が株主の保護に消極的であるため、外国人投資の萎縮や資本市場の信頼低下につながる、との指摘もありました。 
 
このような背景から、取締役が負う忠実義務の対象に「株主」を追加し、総株主の利益保護を図る法的根拠を設けるに至りました（改正商法382条の3）。当該規定は、附則により公布日から直ちに施行される予定です（附則1条但書）。 
 
2. 株主忠実義務の解釈および適用上の課題 
 
取締役の株主に対する忠実義務は抽象的な概念であり、会社の運営や取締役の職務遂行においてその解釈、適用の判断基準が必ずしも明確ではありません。 
 
以下では、改正商法382条の3の解釈と、想定される適用範囲を中心に検討を行います。なお、より具体的な基準は、個別事案の蓄積を踏まえ、明確化されるものと見込まれます。 
 
(1)「総株主の利益保護」の意義（382条の3の2項前段） 
 
「総株主の利益を保護」することは、個々の株主ではなく、株主全体（総株主）を一つの集団とし、その集合的利益を保護することを意味します。 
 
取締役がその権限を行使する際、入手可能な十分な情報に基づき、株主全体の利益を保護すると誠実かつ合理的に判断、決定したのであれば、その結果として一部株主に損害が生じても経営判断の原則により保護される可能性が高いです。個別の株主は、ある決定が自己の利益に反することをもって、取締役に責任を問うべきではないと考えられます。 
 
(2)「全体株主の利益を公平に待遇する」の意義（382条の3の2項後段） 
 
商法では、「全体株主」の定義は明記されていません。改正商法の立法過程において、発議者（李楨文議員）は、「全体株主」とは「特定株主」または「支配株主」に対置される概念で、すべての株主の利益を公平に扱う趣旨であると説明しています。 
 
改正商法の趣旨に照らすと、「全体株主の利益を公平に待遇する」ことは、合併・分割・第三者割当増資など、一般株主の利益が侵害され得る組織再編・資本取引の場面において、取締役が特定株主に偏らず、全体株主の利益を考慮した決定を行う義務を負うことを意味すると考えられます。 
 
3. 波及効果および対応方針 
 
(1) 波及効果 
 
今回の改正は、コーポレートガバナンス、内部統制システム、株主権の保護、および企業の対外的信頼度に重大な影響を及ぼします。 
 
▲ 合併・分割・株式交換その他組織再編により株主の株式価値が毀損される場合、▲ 合併比率の不公正が問題となる場合、▲ 物的分割後の子会社上場（いわゆるスピンオフ上場）の場合、▲ 資本減少により少数株主をスクイーズアウトする場合、株主に直接的な損害が生じ得るため、取締役の株主忠実義務が積極的に問われる見込みです。 
 
従来、取締役の責任は会社に損害が生じた場合において問われることが多かったです。他方、改正商法の施行後は、会社に損害が生じていない場合でも、株主に直接損害が発生していれば、商法401条に基づく損害賠償請求の提起が見込まれます。また、総株主の利益を保護しなかった場合、又は特定株主を優待した場合にも、取締役の民事責任を追及できます。 
 
(2) 対応方針 
 
商法改正は、アクティビストファンドのような少数株主による積極的な株主権の行使（株主関与、Shareholder Engagement）につながることも予想され、より精緻なリスク管理・意思決定体制を整備する必要があります。 
 
企業は、株主利益の保護および公平待遇の原則に基づく社内ガイドラインを策定し、経営陣・取締役に向けて教育を実施する必要があります。特に、事業再編、合併、系列間取引等、利害相反が生じ得る重要案件において、総株主の利益に適合することを確保する体制が求められます。また、公正性確保のための内部手続、記録管理体制を構築し、意思決定プロセスの透明性を向上することにより、今後発生しうる紛争を未然に防止するのが望ましいです。 
 
より抜本的には、定期的に株主説明会を開催し、株主提案への誠実な検討・フィードバックを行い、オンライン対話窓口の運営を通じてコミュニケーションを多様化するとともに、株主還元方針を策定・共有することにより、企業と株主のサステナブルな信頼関係を築く必要があります。 
 
さらに、取締役の株主忠実義務が適用される範囲・刑事責任（背任罪）との関係など、解釈の不確実性が増したことから、会社の意思決定全般においてより慎重な法的検討を行う必要があります。特にM&A、経営権争奪、損害賠償請求訴訟など、多様な局面で改正商法の適用が争点化し得るため、事前に法律リスク診断を行い、対応戦略を講じることが不可欠です。また、独立取締役の積極的な活動が予想されるため、取締役会の準備にも万全を期すべきでしょう。</div>
 
 
Ⅲ. 電子株主総会制度の法的根拠整備および大規模上場会社における電子株主総会併用開催の義務化 
 
1. 改正内容 
 
現行商法では、日本と異なり、株主の一部が開催地に直接出席せず、遠隔地から電子的方法により議決に参加する方式（電子株主総会）の開催については規定が存在しませんでした。 
 
改正商法は、上場会社について定款に別段の定めがない限り、開催地での総会と並行して電子株主総会を開催できるようにし、資産規模等の要件を満たす一定の上場会社には電子株主総会の併用開催を義務化しました。オンライン参加の株主にも議決権等を認められ、日本におけるハイブリッド出席型バーチャル株主総会と趣旨を同じくします。 
 
電子株主総会制度の導入により、企業における意思決定の公正性、透明性を向上させ、株主総会のアクセシビリティを大幅に高め、デジタル基盤の経営インフラを拡大することが期待されます。 
 
改正規定（364条、368条、542条の14および542条の15）は、2027年1月1日から施行される予定です。 
 
<table cellpadding="8px" style="width:100%; text-align:center; border:1px solid #bbb; border-collapse:collapse;" width="100%">
	<tbody>
		<tr>
			<th style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); background-color: rgb(242, 242, 242);border-top: 2px solid #cc0000; ;padding-right: 12px;" width="50%">現行規定</th>
			<th style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); background-color: rgb(242, 242, 242);border-top: 2px solid #cc0000;;padding-right: 12px;" width="50%">改正商法</th>
		</tr>
		<tr>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第364条（招集地） 
			②〈新設〉 </td>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第364条（招集地及び開催方式） 
			② 会社は総会日において、株主が招集地に直接出席する方式により総会を開催するものとする。</td>
		</tr>
		<tr>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第368条（総会の決議方法と議決権行使） 
			② 株主は代理人にその議決権を行使させることができる。この場合、代理人は代理権を証明する書面を総会に提出しなければならない。</td>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第368条（総会の決議方法と議決権行使） 
			② -------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------書面又は電子文書---------------------。</td>
		</tr>
		<tr>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal;" valign="top">〈新設〉</td>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第542条の14（電子株主総会） 
			① 上場会社は定款で別段に定める場合を除き、取締役会の決議により株主の一部が招集地に直接出席せず遠隔地から電子的方法で議決に参加できる方式の総会（以下「電子株主総会」という。）を開催できる。 
			② 資産規模等を考慮し、大統領令で定める上場会社は電子株主総会を開催しなければならない。 
			③ 上場会社が電子株主総会を開催する場合、株主は招集地へ直接出席する方式と電子通信手段による出席方式のいずれか一方の方式によりのみ総会へ出席できる。 
			④ 電子株主総会に出席した株主等は、第364条に基づき招集地へ直接出席したものとみなす。 
			⑤ 上場会社が電子株主総会を開催する場合、第363条第1項の招集通知に電子株主総会を開催する旨、出席方法その他大統領令で定める事項を含めなければならない。 
			⑥ 第1項から第5項までに定める電子通信手段、電子株主総会の開催要件その他必要事項は大統領令で定める。</td>
		</tr>
		<tr>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal;" valign="top">〈新設〉</td>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第542条の15（電子株主総会の運営等） 
			① 上場会社が第542条の14に基づき電子株主総会を開催する場合、株主が総会の議事進行及び決議にリアルタイムで参加できるよう総会を適切に運営しなければならない。 
			② 上場会社は電子株主総会の運営における効率性及び公正性を確保するため、大統領令で定めるところにより、電子株主総会を管理する機関を指定し、電子株主総会の議事進行及び決議に参加する手続の運営を委託することができる。 
			③ 第２項により指定された電子株主総会管理機関及びその役職員は、職務上知り得た情報で、外部に開示されていない情報を正当な理由なく自己又は第三者の利益のために利用してはならない。 
			④ 上場会社は、大統領令で定めるところにより、電子株主総会の開催に関する記録を総会終了日から5年間保存しなければならない。 
			⑤ 上場会社は第４項の記録を総会終了日から3か月間本店に備置し、株主は営業時間内に記録の閲覧を請求できる。 
			⑥ 株主の質疑方法と手続、議長の議事進行など、電子株主総会の運営やその他必要な事項は大統領令で定める。</td>
		</tr>
	</tbody>
</table>

<div style="text-align: justify;"> 
2. 波及効果および対応方針 
 
(1) 波及効果 
 
従前、株主総会へ出席しない株主は少なくありませんでした。毎年3月の株主総会シーズンは、他社総会と日程が重複しがちであるほか、本店所在地が交通不便であるなど移動時間や労力の観点から出席が難しく、積極的に意思を表明しないことが頻繁に起こりました。これにより、委任状を取得することが参加率向上の鍵となっていました。 
 
他方、電子株主総会の制度化により、物理的場所の制約がなくなったため、より幅広い株主が総会に直接参加できるようになります。複数社の株主で日程重複に悩む者、本店所在地と別地域に居住する者、海外滞在者などの少数株主も参加しやすくなるため、企業の意思決定に対する牽制機能が強化されると見込まれます。企業側も、効率の向上、リアルタイムコミュニケーションによる総会の実質化が期待できます。 
 
(2) 対応方針 
 
電子株主総会に関する改正商法は、電子株主総会の開催義務が課される上場会社の範囲および電子株主総会の具体的な開催方式、運営手続等を大統領令で定めるものとし、2027年1月1日から施行される予定です。したがって、電子株主総会制度を適法に運用するためには、商法施行令の改正とその具体的内容を綿密に確認し、適切に対応する必要があります。 
 
上場会社は定款を精査し、電子株主総会に関する条項を新設または改正しなければなりません。特に、電子株主総会の開催要件、株主の出席方法、招集通知の記載事項等を明確に規定するとともに、取締役会規程や内部意思決定マニュアルもこれらに整合するよう調整を行うことが求められます。 
 
他方、電子的手段を用いた株主総会の運営は、セキュリティ、認証、議決権の確認等、技術的・手続的課題を伴います。企業は出席確認・議決権行使・記録保存のためのシステム構築や事前リハーサルを通じて、総会運営の公正性と安定性を確保しなければなりません。さらに、電子株主総会で生じ得る手続上の瑕疵や株主との紛争に備え、予防的なリスク分析と対応マニュアルを策定することが必要とされます。</div>
 
 
Ⅳ. 上場会社における社外取締役の呼称の変更（「独立取締役」）および選任義務比率の引き上げ（4分の1→3分の1） 
 
1. 改正内容

<div style="text-align: justify;"> 
日本とは異なり、韓国の資本市場はコロナ禍以降においても低迷が続き、資本市場を活性化するための企業統治改革が求められてきました。そこで、上場会社において社外取締役の呼称を「独立取締役」へ変更し（非上場会社は呼称変更なし）、選任義務比率を取締役総数の4分の1から3分の1へ拡大する改正が成立しました。 
 
改正商法は、独立取締役の「独立」とは会社の外部者であるだけでなく、支配株主からの独立を意味すると明記しています。また、独立取締役に関する定義条項を設け、社内取締役・執行役員・業務執行指示者から独立した機能を担うことを明らかにしています。 
 
これは、上場会社において社外取締役の独立性を強化し、株式会社の支配株主および経営陣を効果的に監視・牽制するとともに、株主全体の利益を代弁する制度を導入することにより、企業経営の公正性および透明性を向上させることを目的とするものと理解されます。 
 
一方、韓国の資本市場法、韓国取引所上場規程、金融委員会のコーポレートガバナンス模範基準等では、依然として「社外取締役」の用語を使用しており、用語不一致による実務・開示・監査報告の混乱が指摘されました。改正商法の附則3条は、他法令で旧「社外取締役」を引用する場合、特別な規定がない限り、改正後の独立取締役を含むと規定し、法体系の整合性を担保しています。 
 
独立取締役に関する改正商法は、公布後1年が経過した日から施行される予定です（附則１条本文）。施行時点において、従前の社外取締役は改正後の独立取締役とみなし、上場会社は施行後1年以内に拡大された選任義務比率（独立取締役比率3分の1以上）を充足しなければなりません（附則２条）。 
 </div>

<table cellpadding="8px" style="width:100%; text-align:center; border:1px solid #bbb; border-collapse:collapse;" width="100%">
	<tbody>
		<tr>
			<th style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); background-color: rgb(242, 242, 242);border-top: 2px solid #cc0000; ;padding-right: 12px;" width="50%">現行規定</th>
			<th style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); background-color: rgb(242, 242, 242);border-top: 2px solid #cc0000;;padding-right: 12px;" width="50%">改正商法</th>
		</tr>
		<tr>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第542条の8（社外取締役の選任） 
			① 上場会社は、資産規模等を考慮し、大統領令で定める場合を除き、取締役総数の４分の１以上を社外取締役としなければならない。（後略）</td>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第542条の8（独立取締役の選任） 
			① ---３分の１---独立取締役（第382条第3項の社外取締役であって、社内取締役、執行役員および業務執行指示者から独立した機能を担う取締役をいう。）（後略）</td>
		</tr>
		<tr>
		</tr>
	</tbody>
</table>

<table cellpadding="8px" style="width:100%; text-align:center; border:1px solid #bbb; border-collapse:collapse;" width="100%">
	<tbody>
	</tbody>
</table>
※その他多数の規定において、「社外取締役」という用語が「独立取締役」へと改正されている。

<div style="text-align: justify;"> 
2. 波及効果および対応方針 
 
上場会社における「社外取締役」は「独立取締役」へ変更され、すべての上場会社に選任義務比率が拡大されることにより、その地位・機能が強化されることが期待されます。 
 
一方、独立取締役を選任するに当たり、兼職限度の制限（商法542条の8の2項、同法施行令34条）のような法律上の欠格事由が存在し、又は外部者ゆえ企業情報取得、分析面で脆弱な候補者も少なくありません。改正商法が施行されると、独立取締役の確保が困難となり、取締役会の運営に支障が生じる懸念があります。 上場会社は、改正商法の施行後1年以内に拡大された要件を満たす必要があるため、独立取締役の候補者プールを事前に構築することが不可欠です。 
 
現行商法は、社外取締役の選任義務を違反した際、5千万ウォン以下の過料が科されることを定めています（635条3項）。改正商法が適用される上場会社は、定款、取締役会規程で「社外取締役」を「独立取締役」へ改め、取締役会の構成、独立取締役の選任プロセス、欠格要件等を最新法に合わせて点検、改訂する必要があります。 
 
 
Ⅴ. 監査委員の選任・解任時における最大株主の議決権制限（いわゆる3％ルール）の強化 
 
1. 改正内容 
 
<table cellpadding="8px" style="width:100%; text-align:center; border:1px solid #bbb; border-collapse:collapse;" width="100%">
	<tbody>
		<tr>
			<th style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); background-color: rgb(242, 242, 242);border-top: 2px solid #cc0000; ;padding-right: 12px;" width="50%">現行規定</th>
			<th style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); background-color: rgb(242, 242, 242);border-top: 2px solid #cc0000;;padding-right: 12px;" width="50%">改正商法</th>
		</tr>
		<tr>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第542条の12（監査委員会の構成等） 
			④ 第1項に基づき監査委員会委員を選任又は解任する場合には、上場会社の議決権を有しない株式を除いた発行株式総数の100分の3（定款でこれより低い株式保有比率を定めることができ、定款でより低い株式保有比率が定められているときは当該比率とする。）を超える数の株式を保有する株主(最大株主であって、社外取締役でない監査委員会委員を選任又は解任する場合には、その特殊関係人、その他大統領令で定める者が所有する株式を合算する。）は、その超過する株式について議決権を行使することができない。 
			⑦ 第4項は、上場会社が監査を選任又は解任する場合に準用する。この場合、株主が最大株主であるときは、その特殊関係人、その他大統領令で定める者が所有する株式を合算する。</td>
			<td style="border: 1px solid rgb(187, 187, 187); padding-right: 12px; padding-left: 12px; line-height: normal; text-align: justify;" valign="top">第542条の12（監査委員会の構成等） 
			④ -------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------(最大株主である場合、その特殊関係人、-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------。 
			⑦ ---------------------------------------------------------------------。〈後段削除〉</td>
		</tr>
	</tbody>
</table>

<table cellpadding="8px" style="width:100%; text-align:center; border:1px solid #bbb; border-collapse:collapse;" width="100%">
	<tbody>
	</tbody>
</table>
  
現行商法では、△ 社外取締役である監査委員会委員を選任・解任する場合、すべての株主にいわゆる「個別3％ルール（個々の株主の議決権行使を3％までに制限する規定）」を適用し、△ 社外取締役でない監査委員会委員を選任・解任する場合、最大株主に対しては「合算3％ルール（特別関係人等の持株比率を合算して議決権行使を3％までに制限する規定）」を、その他の株主には「個別3％ルール」を適用していました（542条の12の4項）。 
 
今回の改正商法は、社外取締役である監査委員会委員の選任・解任の場合にも、最大株主に合算3％ルールを適用するように改正されました。これにより、監査委員会の委員を選任・解任する際に社外取締役か社内取締役かを問わず、最大株主には合算3％ルールを、その他の株主には個別3％ルールを適用するようになりました。3％ルールに関する改正商法は、公布後1年を経過した日から施行される予定です（附則1条本文）。 
 </div>

<div style="text-align: justify;">２．波及効果および対応方針 
 
(1) 波及効果</div>

<div style="text-align: justify;"> 
従来、経営権紛争事件において、3％ルールに基づき少数株主側が推薦した候補が監査委員会の委員に選任されることがありました。このように、3％ルールは、少数株主の影響力を高め、最大株主の支配権を弱体化させたと評価されています。 
 
これに対し最大株主側は、株式の分割、貸与、系列会社または特別目的会社（SPC）を通じた株式の買集め、特別関係人への譲渡のような形で3％ルールを回避し、監査委員会委員の選任または解任に影響力を行使する場合がありました。 
 
改正商法は、このような弊害を防ぎ、監査委員会を最大株主の影響力から独立させ、監査機関としての役割を忠実に果たせるよう制度的枠組みを整備することを目的とするものです。最大株主に合算3％ルールが適用される範囲が広くなったため、最大株主が監査委員会委員の選任・解任に及ぼし得る影響力はさらに制限されると予想されます。また、少数株主や海外機関投資家、アクティビストファンド等が監査委員会委員の選任または解任を糸口として、経営に介入する可能性も高まると見込まれます。 
 
(2) 対応方針 
 
最大株主側、少数株主側ともに、他の株主とのコミュニケーションを強化し、連携することにより、友好的株主を最大限確保することが求められます。特に最大株主としては、できる限り特殊関係人に該当しない友好的株主を多数確保する必要があります。 
 
 
Ⅵ. おわりに 
 
今回の商法改正は、企業経営全般においてより厳格な責任体制を確立し、公正な株主待遇を要求する方向を示すものです。各社は単なる規制対応にとどまらず、企業の信頼性や透明性を高め、企業価値を向上する機会として捉えるのが望ましいです。そのためには、全社的な対応計画を整備し、変化した環境に対応する体制構築が不可欠です。 
 
当事務所の経営権紛争・株主エンゲージメント対応センターは、商法改正に伴う定款変更、内部統制システムの整備、取締役会の準備、電子株主総会の運営、アクティビズムや株主エンゲージメントへの対応、経営権紛争に関する関連訴訟・非訟手続など、多岐にわたる案件において総合的リーガルサービスを提供しております。 
 
本件に関し更なるご相談がございましたら、お気軽に当事務所までお問い合わせください。 
 
 
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