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【労働】通常賃金の概念及び判断基準を再定義した大法院全員合意体の判決

2024.12.23

１. はじめに 
 
大法院は、2024年12月19日、在職条件付き定期賞与金（2020ダ247190）、勤務日数条件付き定期賞与金（2023ダ302838）が「通常賃金」に該当するかが争点となった各事件において、大法院裁判官全員一致の意見で、通常賃金の概念と判断基準を再定義する判決（以下総称して「対象判決」といいます。）を言い渡しました。 
 
大法院は、2013年12月18日に言い渡した2件の全員合議体判決（2012ダ29399、2012ダ94643、以下「従前全員合議体判決」といいます。）を通じて、通常賃金を「所定労働の対価として支払われる金品で、定期的・一律的・固定的に支払われたもの」と定義し、その概念要素の一つである固定性が否定される例として、「特定の時点で在職中の労働者にのみ支払われる賃金」（在職条件付き賃金）や「一定勤務日数を満たさなければ支払われない賃金」（勤務日数条件付き賃金）を示しました。しかし、今回の対象判決では、これを再定義しました。 
 
以下では、対象判決の内容とその意義、さらに対象判決が与える影響と人事管理面での留意点について紹介します。 
 
 
２. 対象判決の要旨 
 
⑴ 通常賃金の新たな定義 
 
大法院は、対象判決を通じて、「労働者が所定労働を完全に提供すれば、その対価として定期的・一律的に支払われるように定められた賃金は、それに付加された条件の有無や成就の可能性にかかわらず、通常賃金に該当する」と判示しました。 
 
⑵ 新たな定義の意義1：通常賃金の判断基準から「固定性」を除外    
 
対象判決により、「固定性」は通常賃金の概念要素から除外されることになりました。その理由として、法令上の根拠がないこと、所定労働の価値を十分に反映していないこと、及び、延長労働の抑制という政策目標に合致しないことなどが挙げられます。大法院は、以下のような項目の賃金を例に挙げて判断しました。 
 
<div style="margin-left:18px">① 在職条件付き賃金：通常賃金に該当</div>

<div style="margin-left:18px">いかなる賃金が支払われるためには、特定の時点で在職中でなければならないという条件が付加されているとしても、その賃金が所定労働の対価であることを否めないため、通常賃金に該当します。 
 </div>

<div style="margin-left:18px">② 勤務日数条件付き賃金：所定労働日数以内の労働日数条件があっても、通常賃金に該当</div>

<div style="margin-left:18px">労働日数条件が所定労働日数の範囲内で定められた勤務日数条件付き賃金の場合、当該賃金は通常賃金に該当します。もし、労働者が休暇の使用などにより労働日数条件を満たせず、勤務日数条件付き賃金を支払われない場合においても、当該賃金が「所定労働対価性」、「定期性」及び「一律性」の要件を満たしている限り、通常賃金に算入しなければなりません。 
 </div>

<div style="margin-left:18px">ただし、労働日数条件が所定労働日数を超える労働日数条件付き賃金は、所定労働を超える追加労働の対価であり、「所定労働対価性」の要件を満たせないことから、通常賃金には該当しません。</div>

<div style="margin-left:18px">③ 成果給（業績給）：一般的に通常賃金に非該当 </div>

<div style="margin-left:18px">成果給は、一定の業務成果を達成し、それに対する評価の結果が一定の基準に達した場合支払われるものであり、所定労働の対価として捉えることはできず、（固定性とは関係なく）一般的には通常賃金に該当しないと判断しました。</div>
 
 
⑶ 新たな定義の意義2：「所定労働対価性」、「定期性」及び「一律性」の判断基準は維持 
 
労働者と使用者が所定労働時間に提供することを定めた労働の対価であるという「所定労働対価性」、賃金の支払い時期と支払い対象があらかじめ一定に決まっていることを要求する「定期性」と「一律性」の概念は、依然として有効な通常賃金の判断基準です。 
 
⑷ 新たな定義の意義3：新たな基準によっても、通常賃金に該当しない条件付き賃金は存在 
 
新しい定義に従うとしても、所定労働の提供に関係なく、一時的又は変動的に支払われる金品は、依然として通常賃金から除外されます。 
 
そして、性質上、通常賃金を基礎として算定される法定手当は、通常賃金に該当しません。 
 
また、大法院は、付加された条件によって、特定の条件付き賃金が通常賃金に該当しない可能性も残しています。例えば、運輸会社が一定期間、交通事故が発生しないことを条件として支払う無事故手当は、所定労働の提供に加えて、無事故という追加的な要件の達成に対する報酬として支払われるものであり、所定労働対価性が欠如しているため、通常賃金に該当しないと判断しました。 
 
⑸ 在職条件と勤務日数条件の効力：限定的に有効 
 
対象判決は、「使用者と労働者は、賃金構造や体系、個別賃金項目の種類と内容、賃金総額などを自由に定めることができ、賃金に関する条件も自由に付加することができる。その条件は、強制規定に違反せず、脱法行為に該当するなど、別途の無効事由が存在しない限り、効力を有する。しかし、条件の効力を巡る問題と、その条件が付加された賃金項目が通常賃金に該当するかに関する問題は、区別しなければならない。（中略）勤務日数条件付き賃金を通常賃金から除外するため、実態とかけ離れた所定労働日数を定める場合など、通常賃金に関する強行法規を潜脱する旨の合意は、その効力が否定される可能性がある」と示しました。 
 
これによると、いかなる賃金に付加された在職条件や勤務日数条件が強行規定の違反又は脱法行為に該当しない場合有効ですが、そのような場合においても、当該賃金が通常賃金に該当するかについては別途判断が必要となります。 
 
⑹ 新たな法理の効力範囲：対象判決事件及び並行する事件にのみ判例変更の遡及効果を適用 
 
大法院は、法的安定性と信頼保護のため、新たな法理は対象判決の宣告日以降の通常賃金の算定から適用することとしました。ただし、対象判決事件及び並行する事件（対象判決の宣告時に変更された法理が裁判の前提となり、通常賃金に該当するかどうかが争われ、裁判所に継続中の事件）には、具体的な事件の権利救済を目的とする司法の本質に照らし、新たな法理が遡及的に適用されると判断しました。 
 
 
３. 対象判決が及ぼす影響 
 
⑴ 在職条件付き賃金と勤務日数条件付き賃金そのもの 
 
対象判決によって在職条件と勤務日数条件自体が無効となったわけではありません。したがって、そのような条件を設けた会社であれば、その条件を満たしていない退職者や勤務日数を満たしていない者に対し、当該条件付き賃金を支払わないこと自体が違法ではありません。 
 
⑵ 2024年12月19日以前の延長・夜間・休日労働手当等 
 
2024年12月20日現在までに通常賃金に関する訴訟が提起されていない会社であれば、2024年12月19日以前の延長・夜間・休日労働手当など、通常賃金を基準として計算する手当については、従前全員合議体判決の法理に基づき、固定性の概念を適用して各賃金項目が通常賃金に該当するかを判断することができます。したがって、2024年12月19日以前の延長・夜間・休日労働手当などを従来の基準に従って支払うことに問題はございません。 
 
⑶ 2024年12月19日以降の延長・夜間・休日労働手当等 
 
新たな法理に基づき、各賃金が通常賃金に該当するかを判断しなければなりません。在職条件付き賃金と勤務日数条件付き賃金を支払う会社であれば、通常賃金の金額が変わる可能性があります。 
 
 
４. 企業の人事管理において考慮すべき事項 
 
⑴ 通常賃金の範囲・賃金体系の再検討、賃金交渉への反映 
 
対象判決により、通常賃金の概念と判断基準が変更されたため、賃金体系全般について再検討が必要です。新たな基準に基づき、各賃金項目が通常賃金に該当するかどうかをまず確認した上で、それに応じて賃金体系を再構築する作業が必要です。 
 
また、新たな法理により、会社ごとの通常賃金の範囲が大きく異なることが予想されます。そのため、賃金交渉を控えている、又は進行中の会社は、新たな通常賃金の範囲を考慮して交渉を行う必要があります。 
 
⑵ 延長・夜間・休日労働・年次有給休暇未使用に対する管理 
 
通常賃金は、延長・夜間・休日労働手当、年次有給休暇未使用手当等の算定基準となります。したがって、通常賃金の増大による会社の財政負担の増加は、延長・夜間・休日労働時間、年次有給休暇の未使用日数の発生した際に現実化されます。新たな法理により通常賃金の範囲が拡大される会社は、延長・夜間・休日労働時間に対する効率的な管理や年次有給休暇の使用促進など、人事管理の再整備を行い、財政負担を緩和する努力が必要です。

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