1. はじめに
最近、米国ジョージア州における現代(ヒョンデ)自動車とLGのバッテリー工場建設現場で、韓国人労働者約300名が不法滞在の疑いにより一斉に拘禁され、社会的な論争を引き起こしました。米国政府の措置が過度であるとの批判が提起される一方で、韓国では、観光ビザで入国した後、許可されていない経済活動に従事している米国人に対しても対策を講じるべきであるという主張がなされるに至っています。
このように、海外における在留資格、すなわち査証(ビザ)に関する問題は、単に個人の身分にとどまらず、
国際的な労働関係の形成と存続を可能にする重要な前提であります。韓国においても、海外労働力に対する需要が増加する中、様々な在留資格を有する外国人労働者が、韓国の経済及び産業現場において活発に活動しています。
本稿では、このような流れを踏まえ、まず韓国における査証制度の概要を示し、その中でも企業活動と密接に関連するE-9、E-7、D-7ビザの特徴について紹介します。また、次回には、査証発給に関する代表的な大法院(日本の最高裁に相当)判例2件を取り上げ、企業の人事実務に示唆を導き出すこととします。
2. 韓国における査証制度の概観
韓国の査証制度は、「出入国管理法」及びその下位法令に基づいて定められています。出入国管理法令は、滞在の目的に応じて、外国人の資格を、外交・公用(A)、旅行(B)、短期滞在(C)、長期滞在・研修・駐在(D)、就労・専門職(E)、家族・長期滞在(F)、その他(G)、特殊(H)に区分し、各目的に応じて、外国人の活動範囲及び滞在期間を制限しています。
査証制度の概要は、以下の表のとおりです。
| 在留資格 |
細分類 |
申請資格等 |
特記事項 |
| A 公用 |
外交・公用等 |
外交使節・国際機関職員等 |
公務遂行者(家族帯同可) |
| B 旅行 |
査証免除、観光・通過 |
観光・通過目的 |
30~90日、資格変更に制限あり |
| C 短期 |
C-1~3 取材等 |
短期活動・短期訪問等 |
営利活動不可・90日以内 |
| C-4 短期就労 |
短期間の特定労務の提供 |
90日以内 |
| D 長期 |
D-1~2 芸術・留学 |
芸術活動従事者・大学生等 |
契約書・入学許可書等提出要 |
| D-3~7 研修等 |
産業技術・語学研修参加者 |
所属企業・関係機関推薦書等提出要 |
| D-8~9 企業への投資等 |
外国人投資家 |
投資申告済証提出要 |
| D-10 求職 |
就労希望者(韓国国内) |
学歴・職歴証明書類提出要 |
| E 就労 |
E-1 教授 |
大学教授 |
雇用契約書提出要 |
| E-2 語学指導 |
外国語講師 |
招へい状(学校・語学学校)提出要 |
| E-3~6 研究等 |
研究機関従事者・専門職 |
経歴証明書・資格証明書提出要 |
| E-7 特定活動 |
専門分野従事者 |
雇用推薦書・契約書提出要 |
| E-8~10 非専門就労 |
単純労働従事者等 |
自治体協定書等提出要 |
| F 家族 |
家族・永住等 |
家族滞在・永住・在外同胞 |
定住者中心 |
| G その他 |
その他 |
難民・医療滞在等の特別事由 |
個別審査対象 |
| H 特殊 |
観光・就労等 |
ワーキングホリデー・訪問就業 |
特定協定国対象 |
3. 企業活動に関連する主要な査証(ビザ)
韓国の産業における外国人労働者の必要性が増大し、また外資系企業の韓国進出が拡大する中、査証制度は企業活動に少なからぬ影響を及ぼすようになっています。とりわけ、
規模及び活用度の観点から重要な在留資格としては、E-9、E-7、D-7ビザが挙げられます。これらの在留資格は、海外人材の韓国への受け入れを制度的に支えるものであり、それぞれ法的性格や要件などが異なります。
これらの在留資格の中で最も発給数が多いのは、
E-9ビザ(非専門就労)です。E-9ビザは、「外国人労働者の雇用等に関する法律」に基づく雇用許可制を通じて運営されており、製造業、建設業、農畜産業、漁業など、韓国人労働者の確保が困難な特定業種に限って発給されます。対象となるのは、韓国政府と協定を締結した特定国家から選抜された人材であり、初回の在留期間は3年とされています。現在、韓国の産業現場で就労する外国人労働者の圧倒的多数がこの在留資格を保持しており、E-9ビザは実質的に、韓国における中小企業や、農漁村地域の労働力を支えている制度として位置付けられます。
次に重要な在留資格として挙げられるのが、
E-7ビザ(特定活動)です。これは、韓国法務部の告示に基づき、特定職種に該当する専門業務に従事する外国人を対象としています。申請の際には、雇用契約書、学歴及び経歴を証明する書類、査証発給認定書の提出が必要であり、在留期間は通常1~2年単位で許可されます。ただし、E-7ビザは韓国における長期的かつ安定した経済活動を保障するため、厳格な審査を伴います。担当予定である職務が告示された特定職種に適合しているか、韓国人労働者による代替が困難である合理的な理由が存在するか、企業の財務状況や外国人雇用規模に問題がないか、提出書類が適切に準備されているかなどについて、企業実態の調査や関係者との面談を通じ、厳格に審査されます。そのため、韓国企業による海外人材の採用や、外資系企業の韓国進出にあたり、E-7ビザの発給が必要となる場合、該当職種に適合した申請書類の作成など、戦略的な事前準備が求められます。
D-7ビザ(駐在)は、海外本社と韓国の支社・子会社間における人材派遣を目的とした在留資格です。多国籍企業が本社所属の社員を韓国支社へ派遣する場合や、韓国企業が海外法人に駐在させていた社員を再び韓国に配置する場合などに活用されます。申請に際しては、本社と支社(又は子会社)との派遣関係を証明する書類、在職証明書、事業者登録証などの提出が必要であり、初回の在留期間は1年以内で付与されるのが一般的です。この在留資格は、新規人材の雇用ではなく、すでに企業に所属する人材の国際的な異動を対象とする点で、前述のE-7ビザとは異なります。
最後に、
E-8、D-9、D-8ビザも企業活動と一定の関連を有する在留資格として位置付けられます。E-8は、農繁期や、漁業の繁忙期に必要な短期労働力を確保するための季節労働ビザであります。地方自治体が海外地方政府との協定に基づき運営しており、滞在期間は最長5か月です。D-9は、貿易業務に従事する外国人に付与される在留資格であり、D-8は、外国人投資家又は投資企業の役員に対して与えられるものです。これらの在留資格は、発給数こそ多くないものの、地域における人材不足の緩和や貿易・投資の促進といった具体的な政策目的を担っています。
このように、企業活動に関連する主要なビザは、それぞれ異なる制度的背景と要件があり、韓国の企業活動において重要な役割を担っています。特定の人材をどのように招へいし、どのように活用するかは、企業の経営戦略にも直結するため、各ビザの法的性質、申請手続き、および制限事項について綿密に理解しておく必要があります。