法務法人(有限)地平

ニュース|KOREA LEGAL INSIGHT

【労働】年次有給休暇の申請手続と使用者の時季変更権

2025.09.16

1. はじめに 
 
新政府は、労働者の年次有給休暇権の保障を強化することを国政課題として議論すると表明し、年次有給休暇の付与要件を「6か月以上の継続勤務」へ緩和する措置、未使用年次有給休暇を3年間積み立てる制度の導入、年次有給休暇の使用による不利益取扱いの禁止などを検討対象として提示しました。 
 
このように、労働者の権利保障を拡大する政策が提示されている一方で、実際の現場では労働者の権利と企業運営が衝突する事例が少なくありません。 
 
労働者の関心は、実際のところ、「年次有給休暇をいつ、どのように申請すれば会社が拒否しないのか」という点に集中しています。各種コミュニティや相談事例においても、「年次有給休暇を前日に申請した場合、会社は拒否できるのか」といった質問が絶えず寄せられています。 
 
企業の人事担当者が抱える悩みは、労働者とは異なります。業務の空白を最小限に抑えつつ労働者の権利をどのように保障するか、年次有給休暇の使用が集中した際に代替要員をいかに確保するか、さらに就業規則や団体協約にどのような文言を盛り込めば紛争を予防できるか、といった点が主な課題です。特に、年次有給休暇の使用が集中したり、代替要員の確保が困難な業種においては、運営上の支障が避けられません。 
 
こうした現実的な課題の中で、最近、大法院（日本の最高裁判所に相当）が、年次有給休暇の事前申請期間を制限する規定の有効性を認める判決を下しました。 
 
 
2. 年次有給休暇の申請手続と使用者による時季変更権 
 
(1) 年次有給休暇の申請手続 
 
勤労基準法60条5項は、使用者が労働者の請求した時季に年次有給休暇を与えなければならないと規定しています。もっとも、実務上は、団体協約や就業規則などで申請期限を設けたり、一定の申請手続を定めるケースが少なくありません。 
 
(2) 使用者の時季変更権の意義と裁判所の立場 
 
勤労基準法60条5項ただし書きは、「労働者が請求した時季に休暇を与えることが、事業運営に多大な支障を及ぼす場合には、その時季を変更することができる」と規定しています。これは、年次有給休暇の行使も、当該事業場の正常な運営および勤務体制の維持との調和を図らなければならないことを意味します。 
 
ただし、「事業運営に多大な支障を及ぼす場合」とは、「当該労働者が指定した休暇日に休暇を与えることによって、当該事業場の業務効率や成果が平時より著しく低下し、相当な営業上の不利益をもたらすことが懸念される場合、あるいはそのような蓋然性が認められる事情がある場合」を意味します（ソウル高等法院2019年4月4日宣告2018ヌ57171判決）1。 
 
一方、使用者の時季変更権は極めて限定的にしか認められません。使用者が、休暇の実施によって生じる代替要員の必要性を通常予見できたにもかかわらず、適切な代替措置を講じなかったことによって生じた支障は、「多大な支障」には該当しません（ソウル行政法院22016年8月19日宣告2015グハプ73392判決）3。 
 
 
3. 最近の大法院判決 
 
Aバス会社は、団体協約に「年次有給休暇は、最低3日前までに申請しなければならない」と定めていました。ところが、労働者が当日に休暇を請求したところ、会社はこれを拒否し、時季変更権を行使しました。 
 
釜山地方法院2021年8月19日宣告2021ノ891判決は、「事前申請期限は運輸業の特性上、合理的な規定であり、これを遵守しなかった休暇申請を拒否したことは正当である」と判示しました。 
 
大法院2025年7月17日宣告2021ド11886判決は、結論を同じくして、上告を棄却し、「労働者が請求した時季に休暇を与えることが事業運営に多大な支障を及ぼす場合」に該当するか否かは、(1)労働者が担当する業務の内容・性質、(2)労働者が指定した休暇時季における想定勤務人数と業務量、(3)労働者の休暇請求時点、(4)代替労働者確保の必要性およびそのために要する時間など、諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきである、と判示しました。さらに、「路線旅客自動車運送事業のように、運行の定時性が重視される事業において、団体協約が休暇請求の期限を定めているにもかかわらず、労働者がやむを得ない事由なくその期限を遵守せずに休暇を請求する場合には、客観的に見て使用者が当該休暇時季までに代替労働者を確保することが困難となり、その結果、事業運営に多大な支障を及ぼす場合に該当する」と判示しました。 
 
その一方で、当該労働者が、規定された期限を守れなかったやむを得ない事情は確認されず、また、休務者を除く乗務運転職が全員バスを運行する予定であったため、代替労働者を確保できなかった事情も考慮し、会社による時季変更権の行使は適法であると判断しました。 
 
 
4. 意義と示唆 
 
大法院1992年6月23日宣告92ダ7542判決は、市外バス会社における「休暇を取得しようとする者は、事前に所属長に申請し、代表取締役の承認を得なければならない」との就業規則を、「使用者に留保された休暇時季変更権の適切な行使のための規定として有効である」と判断しました。 
 
今回の大法院2025年7月17日宣告2021ド11886判決は、市内バス会社に関して、「運行の定時性が重要な産業において、労働者が団体協約で定められた期限を特段の事情なく遵守しなかった場合には、代替労働者の確保が困難となり、その結果、事業運営に多大な支障を及ぼす場合に該当する」と評価した点に意義があります。 
 
両事件はいずれもバス会社に関する判決であり、業務の定時性を要しない産業や、休暇復帰後の業務遂行が可能な職務、代替要員の確保負担が大きくない事業場にまで、上記基準が一般的に適用されるわけではない点に留意する必要があります。 
 
しかしながら、業種を問わず、労使合意に基づき年次有給休暇の申請期限を設定する場合、その基準が不合理でない限り、時季変更権行使のための有効な基準として認められる可能性が高い点は参考になります。これは、すべての産業や職種において、業務の適時性や代替労働者確保のために一定の時間を確保する必要があるためです。 
 
参考までに、雇用労働部の行政解釈（勤労基準政策課-44・2022年1月6日）は、上記大法院92ダ7542判決を援用しつつ、「年次有給休暇に関する事前承認を義務付ける就業規則条項が必ずしも無効とは言えず、法定休暇ではなく使用者が任意に付与した休暇については、就業規則等に定められた手続きに従うべきである」と解釈しています。 
 
一方、代務者を定め、書面で確認した上で休暇使用を承認する代務者指定制については、勤労基準法違反と解釈されています（勤労基準課-4228・2005年8月12日）。 
 
年次有給休暇に関する事前申請手続についても、制限の態様によって、その有効性の評価が変わる可能性があります。年次有給休暇は、労働者の休息権と使用者の事業運営上の権限との調和が求められる領域であるため、合理的な内容の事前手続を整備する必要があると考えられます。 
 
  
<hr align="left" background-color="#cc0000" size="1" width="33%" />

<div style="line-height: 110%;">1 大法院2019年8月29日付2019ドゥ40062判決により、審理不続行棄却されました。 
2 韓国において、行政事件を専門とする第一審裁判所であります。 
3 確定されました。</div>

KOREA LEGAL INSIGHT 【個人情報・データ・AI】新政権のAI政策の方向性と振興策、外国企業等への示唆点 2025.08.18

目録へ

JIPYONG 법무법인[유] 지평

関連業務分野

主な弁護士等

関連業務分野

主な弁護士等

SHARE

免責告知

有限責任