1. 判決の趣旨 (1) 事業者らが価格を共同で決定するなど、「独占規制及び公正取引に関する法律」(以下、公正取引法)第19条第1項所定の合意をしたとしても、そのような合意だけで、直ちに公正取引法に違反する「談合」になるのではなく、そのような合意が関連市場の競争を不当に制限するかを審査し、合意の違法性を判断すべきである。 (2) 公正取引委員会は、自ら下した処分の適法性を立証しなければならないため、レクサス自動車と他の輸入乗用車、又は、国産高級乗用車間に代替関係があるかをはじめとして、関連市場を国内におけるレクサス自動車販売市場に限定すべき理由ないし根拠に対して証明しなければならない。 2. 事件の概要及び大法院の判決
日本のトヨタで生産されるレクサスは、韓国トヨタ自動車株式会社(以下、韓国トヨタ)が独占輸入しています。韓国トヨタは、また、複数の国内ディーラーと契約を締結し、国内ディーラーにレクサス自動車の販売及び整備ざービス業を行なわせました。9箇所のレクサスディーラーの中、5社は2006年4月から、他の4社は2006年6月からレクサス自動車の価格割引の制限、先契約優先原則(一箇所のディーラーが顧客との契約を締結し契約金をもらっている場合、他のディーラーが顧客に対して追加割引などで誘引し、既存契約を破棄させ、自分と契約させることを禁止する原則)などに合意し、それを2007年5月まで実行しました(以下、本件談合)。 公正取引委員会は、これに対し、公正取引法第19条第1項を適用し、是正命令及び課徴金納付命令を下しました。公正取引委員会は、本件談合の関連市場は国内レクサス自動車販売市場であるが、一部の並行輸入業者を通じて販売されるレクサス自動車を除き、本件談合に関与した9箇所のディーラーの国内レクサス自動車販売市場におけるマーケット占有率がほぼ100%に達し、また、本件談合が、レクサス自動車の販売価格を直接に固定させる効果をもたらし、消費者が低廉な価格でレクサス自動車を購入できないようにするなど、本件談合が関連市場で競争を制限したと認めました。 しかし、ソウル高等法院は、公正取引委員会の処分が間違っているとして、これを取り消しました。本件談合の関連市場は、「国内レクサス自動車販売市場」ではなく、「最小限、レクサス自動車と代替関係にある輸入乗用車及び国産高級乗用車市場全体」であるが、当該市場を調べてみれば、レクサスのディーラーの市場占有率は低く、競争制限制はないものと、みなしました。ソウル高等法院は、関連市場をこのように見なければならないとし、下記の事実を取り上げました。① レクサス自動車は、他の輸入自動車及び国産高級乗用車と競争関係にあり、それらの中には、製品形態、機能や効用、等級、価格などにおいてレクサス自動車と代替関係にある製品が相当数存在し、② 一般的に、輸入自動車及び国産の高級乗用車は、価格弾力性が国産の中・小型乗用車にくらべて大きいため、レクサス自動車の価格を上げれば、消費者が代替関係にある他の製品へ消費を転換する可能性が高いということなど、が取り上げられました。このように、ソウル高等法院は、関連市場を公正取引委員会とは異なって、広く拡張し、レクサスの国内ディーラーの関連市場での市場占有率の合計が約15%より低いため競争制限性がないと結論を下し、公正取引委員会が下した処分をすべて取り消しました。
公正取引委員会は、これに対し、大法院に上告しましたが、大法院はこれを破棄し、ソウル高等法院へ差し戻しました。大法院は、判決において次のように判断しました。与えられた証拠のみで、関連市場をレクサス自動車と代替関係にある輸入乗用車及び国産高級乗用車市場全体へと確定しにくく、関連市場画定に対する立証責任は公正取引委員会にあるため、ソウル高等法院は関連市場の画定を改めて審理すべきであるということです。 3. 判決の意義
従来、アメリカでは、価額談合のように、競争制限性の高い談合を「ハードコア・カルテル」とし、特別に競争制限性如何を問わず、当然違法(per se illegal)として処理しようとする議論がありました。我が公正取引委員会も、共同行為を審査する内部基準である「不当な共同行為の審査指針」にこのような議論を受け入れています。これに対し、「当然違法」法理は立法論として考慮することはできますが、公正取引法第19条第1項でこのような内容を規定していないため、価額談合のような「ハードコア・カルテル」も、当然に違法であるとはいえず、競争制限性如何を検討すべきであるという批判もありました。しかし、今回の判決によって、大法院は、価額談合であっても当然に違法なものではなく、競争制限性を検討すべきであるという点を明確にしました。 これとともに、ハードコア・カルテルの場合、関連市場の画定も不要ではないかという議論もありましたが、大法院は、これに対しても、価額談合の場合においても関連市場の画定が必要であり、これに対する立証責任は公正取引委員会が負担することとしてまとめました。 したがって、今後、公正取引委員会は、価額談合事件を処理する際に、以前より明確に関連市場を画定しなければならない負担を負うことになりました。公正取引委員会に対してより精密なカルテル執行を要求したという点から、今回の判決を肯定的に評価することもできると思われます。但し、関連市場の画定の立証責任を明確にし、立証程度を厳格した結果、公正取引委員会が価額談合を制裁する際に、関連市場の画定及び競争制限性審査において、以前より、多くの時間がかかる恐れもあります。これは、確かに、公正取引委員会に負担として作用せざるを得なくなり、その被害は直ちに談合の最終被害者である消費者に転嫁される可能性もあります。日々増す公正取引事件に比べ、これを摘発し制裁する公正取引委員会の人力が制限されているということを考慮すれば、なおさら、そうであるといえるでしょう。 ただし、大法院は、今回の判決から具体的な結論は下しておらず、ソウル高等法院に関連市場画定を再び検討することを命じたものであるので、最終的な結論に対しては、その推移を見極める必要があります。
4. ダウンロード : 大法院 2012. 4. 26. 宣告2010두11757判決(韓国語)
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