法務法人(有限)地平

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【金融規制】「仮想資産の利用者の保護等に関する法律」施行

2024.08.05

「仮想資産*の利用者の保護等に関する法律」（以下「仮想資産利用者保護法」といいます。）が2024年7月19日に施行されました。 
 
 
I. 立法の背景及び経過 
 
改正「特定金融取引情報の報告及び利用等に関する法律」（以下「旧特定金融情報法」といいます。)が2021年3月25日から施行され、仮想資産及び仮想資産事業者に対する規律体系が初めて設けられました。これにより、仮想資産事業者に対する申告制が導入され、仮想資産事業者の資金洗浄を防止するための規制装置が設けられ、仮想資産事業者は利用者預金の分離・保管義務などを負担することになりました。しかし、旧特定金融情報法を中心とする規制は、資金洗浄防止に焦点が当てられていたため、仮想資産（業）を包括的に規律することに限界があり、特に仮想資産を媒介とする各種不公正取引行為から仮想資産利用者を保護することに困難があるという意見が継続的に提起されました。 
 
国会はこのような状況を考慮し、段階的な立法、すなわち第1段階の規律体系（仮想資産利用者保護装置の整備）及び第2段階の規律体系（仮想資産産業への参入・営業行為の規制、仮想資産の発行・取引支援・公表規制などの整備）を順次導入・施行する方策を議論しました。これに伴い、第1段階の規律体系の一環として、2023年6月30日に仮想資産利用者保護法が制定され、国会本会議を通過し、公布後1年が経過した2024年7月19日から施行されました。仮想資産利用者保護法の施行に合わせて「仮想資産の利用者の保護等に関する法律施行令」（以下「施行令」といいます。）と「仮想資産産業監督規程」（以下「監督規程」といいます。)も設けられ、同じく2024年7月19日から施行されました。 
 
仮想資産利用者保護法は、1.仮想資産の定義、2.利用者資産の保護、3.不公正取引行為の規制などの内容を盛り込んでいます。以下で詳しく解説していきます。 
 
 
II. 仮想資産利用者保護法の主要な内容 
 
1. 仮想資産の定義 
 
仮想資産利用者保護法は、旧特定金融情報法で定義していた仮想資産の概念（経済的価値を有するもので、電子的に取引又は移転されることができる電子的な証票（それに関する一切の権利を含む））を基本的に維持しています。仮想資産利用者保護法は、旧特定金融情報法で定めていたように、ゲームを通じて獲得した成果物、先払電子支払手段、電子通貨、電子登録株式、電子手形、電子船荷証券などを仮想資産の範囲から除外しつつ（仮想資産利用者保護法2条1号イ～ロ)、これに加えて、韓国銀行が発行する電子的な形態の通貨及びそれに関連するサービスも仮想資産の範囲から除外しました（同号ロ）。これは、世界各国で議論されている中央銀行デジタル通貨（CBDC、Central Bank Digital Currency）の導入を念頭に置いたものと理解されます。 
 
そして、旧特定金融情報法における仮想資産の概念にNFTが含まれるかどうかについて様々な議論がありましたが、仮想資産利用者保護法は、一定の要件を満たすNFTを仮想資産の範囲から除外することにより（仮想資産利用者保護法2条1号リ、施行令2条4号）、これを立法的に解決しました。 
 
2. 利用者資産の保護 
 
1) 利用者の預り金保護 
 
旧特定金融情報法は利用者の預り金を仮想資産事業者の固有財産と区分して管理する義務条項を設けていましたが、預り方法など、安全性確保のための具体的な預り金管理方法については別途定めていませんでした。仮想資産利用者保護法は、仮想資産事業者に利用者の預り金全額を固有財産と分離して銀行（「銀行法」上の銀行、農協銀行、水協銀行、中小企業銀行）に預り金又は信託して管理するようにし、利用者の保護措置を強化しました（仮想資産利用者保護法6条1項、施行令8条1～3項）。 
 
2) 利用者の仮想資産保護 
 
仮想資産利用者保護法は、利用者の仮想資産を保護するための装置も設けました。仮想資産事業者は、自己の仮想資産と利用者の仮想資産を分離して保管しなければならず、利用者から委託された仮想資産と同じ種類と数量の仮想資産を実質的に保有しなければならず（仮想資産利用者保護法7条2項）、この時、利用者の仮想資産のうち80%以上をインターネットと分離されたウォレット（cold wallet）に保管しなければなりません（仮想資産利用者保護法7条3項、施行令11条1項、監督規程9条1項)。旧特定金融情報法による仮想資産事業者の申告受理のための要件である情報保護管理体制（ISMS）審査の際、韓国インターネット振興院（KISA）は、コールドウォレット保管比率を70%以上維持できる管理体制が整備されていることを実務上確認していますが、このように間接的な方法で行われていたコールドウォレット保管比率規制が法令上の規制として導入されたのです。 
 
3) 保険の加入等 
 
仮想資産利用者保護法は、仮想資産事業者に対し、コールドウォレット保管分を除いた利用者の仮想資産の経済的価値の5％以上に相当する金額を保険又は共済に加入し、又は準備金を積立（韓国通貨市場取引所の場合、最低30億ウォン以上、コインマーケット取引所及びカストディ事業者など実名確認入出金口座を利用しない仮想資産事業者の場合、最低5億ウォン以上）することを定め、ハッキングやシステム障害などの事故から利用者を保護することができる装置を設けました（仮想資産利用者保護法8条、監督規程10条1～2項）。 
 
3. 不公正取引の規制 
 
旧特定金融情報法は、仮想資産事業者以外の一般利用者などに対しては、直接的な規律条項を設けていませんでした。そのため、相場操縦などの不公正取引行為により仮想資産の価格が急騰・急落し、利用者の被害が発生した場合においても、業務妨害、詐欺などの刑法上の罪以外に、不公正取引行為自体に対する直接的な規制が困難でした。仮想資産利用者保護法は、未公開重要情報の利用禁止、相場操縦の禁止、詐欺的な不正取引の禁止など「資本市場と金融投資業に関する法律」（以下「資本市場法」といいます。）と類似した不公正取引行為の規制体系を導入し、これに加え、仮想資産の特性を考慮した規制も設けました。 
 
1) 資本市場法に類似した不公正取引行為の規制体系の導入 
 
イ. 未公開重要情報の利用禁止 
 
仮想資産事業者、仮想資産を発行する者及びその役職員・代理人としてその職務に関連して未公開重要情報を知り得た者、主要株主としてその権利を行使する過程で未公開重要情報を知り得た者などは、仮想資産に関する未公開重要情報を当該仮想資産の売買、その他の取引に利用又は他人に利用させてはなりません（仮想資産利用者保護法10条1項）。 
 
仮想資産利用者保護法施行令は、重要情報が不特定多数に公開されたとみられる具体的な時点についての基準を提示しており、例えば、①仮想資産取引所が自己のホームページを通じてその内容を公開した情報の場合、公開された時から6時間（ただし、午後6時から翌日の午前3時の間に情報が公開された場合は翌日の午前9時）が経過したとき、②仮想資産を発行する者が自己のホームページを通じてその内容を公開した場合は、公開された時から1日が経過したとき、それぞれ、もはや未公開の重要情報ではないと見なします（施行令15条各号）。 
 
ロ. 売買誘引目的の相場操縦禁止 
 
誰でも、仮想資産の売買を誘引する目的で、仮想資産の売買が盛況であるかのように誤認させ、又はその相場を変動若しくは固定させる売買又はその委託若しくは受託をする行為をしてはなりません（仮想資産利用者保護法10条3項）。 
 
参考までに、資本市場法は上場証券に関連して一定の要件を備えた投資売買業者（証券会社）が一定の条件の下で①証券の価格を安定させることにより、証券の募集又は販売を円滑にするための売買取引（安定操作）及び②募集又は販売した証券の需要・供給を、その証券が上場された日から一定期間にわたって作り出す売買取引（市場造成）を行うことを許容していますが（資本市場法176条3項1～2号）、仮想資産利用者保護法はこれとは異なり、安定操作や市場造成に関する例外規定を設けていないことに留意する必要があります。金融委員会も2023年12月11日付の報道資料を通じて、仮想資産に対する市場造成行為は相場操縦に該当し得るため、刑事処罰又は課徴金賦課の対象となる可能性があるという立場を明らかにしたことがあります。 
 
ハ. 通情売買・仮装売買・詐欺的不正取引の禁止 
 
誰もが、仮想資産の売買に関し、その売買が盛況であるかのように誤認させ、又はその他の他人に誤った判断をさせる目的で、①自己が売る（買う）のと同じ時期に、同じ価格で他人が仮想資産を買う（売る）ことを事前にその者と計画した上で売買する行為（通情売買）、②その権利の移転を目的としない虚偽の売買をする行為（仮装売買）、③通情売買及び仮装売買を委託又は受託する行為をしてはなりません（仮想資産利用者保護法10条2項各号）。 
 
2) 仮想資産の特性を考慮した規制の導入 
 
イ. 自己又は特殊関係者が発行した仮想資産の取引禁止 
 
仮想資産事業者は、原則として、自己又は特殊関係者（「金融会社の支配構造に関する法律施行令」3条1項に基づく特殊関係者）が発行した仮想資産の売買、その他の取引を行うことはできません（仮想資産利用者保護法10条5項、施行令16条1項）。 
 
ただし、①特定の財貨やサービスの支払手段として発行された仮想資産で、仮想資産事業者が利用者に約束した特定の財貨やサービスを提供し、その反対給付として仮想資産を取得する場合、②仮想資産の特性上、仮想資産事業者が必然的に仮想資産を取得する場合であって、不公正取引行為の防止又は利用者との利益相反防止のために一定の公表や金融当局への資料提出等の手続きを行う場合は、例外的に自己発行の仮想資産を取引することが許容されます（同条ただし書き、施行令16条2項）。 
 
ロ. 恣意的な入出金の遮断禁止 
 
仮想資産事業者は、正当な事由なく、利用者の仮想資産に関する入出金又は出金を預り金と仮想資産に対する入出金を遮断してはならず、これに違反した場合、利用者に対して損害賠償責任を負います。また、正当な事由が認められ入出金を遮断する場合においても、その事由を事前に利用者に通知し、金融委員会に直ちに報告しなければなりません（仮想資産利用者保護法11条1～3項）。 
 
ここでいう「正当な事由」とは、①仮想資産関連情報システムなどにシステム障害が発生した場合、②仮想資産事業者又は仮想資産を発行する者に対してハッキングやシステム事故などが発生し、又は発生することが明らかに予想される場合として利用者の保護及びセキュリティのために仮想資産に関する入金又は出金を遮断する緊急の必要性がある場合、③裁判所・捜査機関・国税庁・金融当局などから関係法令に基づき要請された場合、④電気通信金融詐欺による被害者の被害金を返還するために一定の要件の下で出金を遮断する場合などです（施行令17条各号）。 
 
ハ. 異常取引の監視 
 
仮想資産市場を開設・運営する仮想資産事業者は、仮想資産の価格や取引量が異常に変動したり、仮想資産の価格などに影響を及ぼす可能性のある風評や報道などがあるかどうかを常時監視しなければなりません。このような監視業務を遂行しながら、不公正取引行為に該当すると疑われる場合、金融委員会及び金融監督院に直ちに通報し、関連疑惑が十分に証明された場合、遅滞なく捜査機関に報告しなければなりません（仮想資産利用者保護法12条）。 
 
参考までに、金融監督院は仮想資産取引所が異常取引の常時監視業務を遂行するために必要な詳細な事項を定める際に参考となるように「異常取引常時監視ガイドライン」を設け、これに基づいてデジタル資産取引所共同協議体（DAXA）で「仮想資産取引常時監視模範規程」を作成しました。仮想資産取引所を運営する仮想資産事業者は、これを参考にして異常取引の常時監視システムを適切に構築する必要があります。 
 
3) 不公正取引行為に対する制裁等 
 
未公開重要情報の利用禁止、売買誘引目的の相場操縦の禁止、通情売買・仮装売買・詐欺的不正取引の禁止義務に違反した場合、原則として1年以上の有期懲役又はその違反行為で得た利益若しくは回避した損失額の3倍以上から5倍以下の罰金に処せられることがあります（仮想資産利用者保護法19条1項）。自己又は特殊関係者が発行した仮想資産の売買、その他の取引を行った仮想資産事業者は、原則として10年以下の有期懲役又はその違反行為で得た利益若しくは回避した損失額の3倍以上から5倍以下に相当する罰金に処せられることがあります（同条2項）。 
 
また、未公開重要情報の利用禁止、売買誘引目的の相場操縦の禁止、通情売買・仮装売買の禁止及び詐欺的不正取引の禁止に違反した場合、原則として回避した損失額の2倍相当額以下の課徴金が課せられます。ただし、その違反行為に関連する取引で得た利益又はこれにより回避した損失額がない場合や算定が困難な場合は、40億ウォン以下の課徴金が課せられることがあります（仮想資産利用者保護法17条1項）。 
 
 
III. 示唆点 
 
ここまで、仮想資産利用者保護法の主要な内容をみてきました。前述したように、仮想資産（業）に対する包括的な規律体系を整えるための取り組みの一環として行われた第1段階の立法であり、仮想資産産業全般に少なからず影響を与えることが予想されます。 
 
金融委員会は仮想資産利用者保護法の施行に伴い、2024年6月10日に「NFTの仮想資産判定ガイドライン」を配布しました。仮想資産が徐々に制度圏内の規制の枠組みに取り込まれる中、NFT事業者としては、自らが発行しようとするNFTが仮想資産利用者保護法及び上記ガイドラインに照らして、「仮想資産に該当しない」NFTであるかを慎重に検討する必要があります。一方、NFTに対する規制の不明確さのためにNFT関連事業への進出を控えていた事業者にとっては、仮想資産利用者保護法の施行及び上記ガイドラインの整備により、今後、積極的な事業進出の機会を模索することもできるでしょう。 
 
仮想資産利用者保護法の施行以前は、仮想資産を媒介とする不公正取引行為が発生した場合においても捜査機関が取ることができる措置に限界がありましたが、仮想資産利用者保護法の施行により不公正取引行為の規制が整備され、捜査機関もより積極的に捜査に臨むことになると予想されます。特に、前述したように、仮想資産利用者保護法は安定操作や市場造成に対する例外規定を設けておらず、このような行為を委託することも禁止していることに留意する必要があります。 
 
仮想資産事業者の場合、コールドウォレット保管基準の制度化、基準比率の引き上げ、恣意的な入出金遮断の禁止など、より強化された規制を受けることになりました。仮想資産事業者以外にも、仮想資産発行者、実名確認口座を発行した金融会社の場合においても、金融当局の措置及び制裁の対象となる可能性があるため、これまで営んできた事業が仮想資産利用者保護法に違反する可能性はないか点検することが望まれます。 
 
当事務所の金融アドバイザリーグループ・金融規制チームは、デジタル資産全般、仮想資産事業者申告、ブロックチェーンを活用した革新的金融サービスの指定申請に関するリーガルアドバイスなど、多様な経験を蓄積しており、IP・ITグループ及び刑事グループと緊密に協業し、デジタル資産関連の技術・知的財産権、仮想資産関連の捜査機関対応分野においても、迅速かつ総合的なリーガルアドバイスを提供しています。今後も、仮想資産関連の規制の変化を継続的にモニタリングし、実効性のあるリーガルアドバイスを提供してまいります。 
 
[ダウンロード]
<ul>
	<li><a href="https://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsId=014474&ancYnChk=0" target="_blank">仮想資産の利用者の保護等に関する法律（法律第20372号、2024年7月19日施行）</a></li>
	<li><a href="https://www.law.go.kr/%EB%B2%95%EB%A0%B9/%EA%B0%80%EC%83%81%EC%9E%90%EC%82%B0%20%EC%9D%B4%EC%9A%A9%EC%9E%90%20%EB%B3%B4%ED%98%B8%20%EB%93%B1%EC%97%90%20%EA%B4%80%ED%95%9C%20%EB%B2%95%EB%A5%A0%20%EC%8B%9C%ED%96%89%EB%A0%B9" target="_blank">仮想資産の利用者の保護等に関する法律施行令（大統領令第34658号、2024年7月19日施行）</a></li>
	<li><a href="https://www.law.go.kr/%ED%96%89%EC%A0%95%EA%B7%9C%EC%B9%99/%EA%B0%80%EC%83%81%EC%9E%90%EC%82%B0%EC%97%85%EA%B0%90%EB%8F%85%EA%B7%9C%EC%A0%95/(2024-37,20240710)" target="_blank">仮想資産産業監督規程（金融委員会告示第2024-37号、2024年7月19日施行）</a></li>
	<li><a href="https://www.fsc.go.kr/no010101/82682" target="_blank">[金融委員会報道資料] 明日（7月19日）から「仮想資産利用者保護法」が施行されます（2024年7月17日付）</a></li>
</ul>

<hr align="left" background-color="#cc0000" size="1" width="33%" />
<div style="line-height: 110%;">* ビットコイン（BTC）、イーサリアム（ETH）などの暗号資産は、韓国では「仮想資産」という名称で通用しています。このような仮想資産は「仮想資産利用者保護法」で定義されている韓国の法律用語なので、以下では暗号資産を全て仮想資産と呼びます。</div>

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