(写真 : 法務法人地平志誠 明漢錫(ミョン・ハンソク)弁護士))
1. はじめに
1) 中国の法令体系
中国の法令には、次のようなものがあります。憲法、法律(基本法律とその他の法律)、法規(行政法規と地方省法規)、規章(部門規章と地方政府規章)、特別行政区(香港、マカオ)の法規、経済特区の法規、国際条約と協定、全国的な効力を持つものは憲法、法律、行政法規、部門規章であり、その他は、当該地方や地域においてのみその効力を有します。一般的に、効力順位は、憲法、基本法律、その他法律、行政法規、地方省法規及び規章の順です。制定及び改定の主体は、基本法律の場合は全国人民代表大会が、その他法律の場合は全国人民代表大会常務委員会、行政法規の場合は国務院が、部門規章の場合は国務院所属の各部や委員会になります。地方省法規や地方政府の規章は、当該区域の状況によって制・改定の主体が若干異なってきます。
2) 中国法令の特徴
中国法令の場合、その特徴は、まず、憲法と基本法律、そして、地方省法規の中、地方人民代表大会が制・改定する一部の法規を除けば、韓国の行政部に該当する国務院、各部処等が制・改定する法規が非常に多いという点です。
2番目としては、法律等の場合には、抽象的規定が非常におおく、実際、その執行には行政部が制・改定する行政法規等の内容がより重要であるという点が取り上げられます。一方、行政法規が不明確な場合もありますが、この場合、通常、関連部処では、「通常公表されない」内部的解釈指針やガイドラインを制定し、それによって業務を処理しています。結局、法律のみを見れば、若干、不足しているようにみえる中国の法規は、行政法規及び内部指針等を通じて相当に細かく、規律を統一的に行っているといえるでしょう。
3番目としては、立法法(行政手続法)とは異なって、法令を制・改定する際に、公論を無視するケースが多いということです。このようなことを考えると、法令の制・改定において、民主性は衰えるといえます。しかし、特定の状況に対応する立法手続きが非常に速やかになるという長所もあります。また、内部指針等を通じて公務員個人の裁量ではなく、統一的基準によって業務処理が行われるという特徴があります。但し、ある場合には、たまにではありますが、関連法令が頒布されましたが、内部指針がまだ未定ということで業務処理が遅れる場合もあります。
筆者がここで強調しようとすることは、中国法令の場合、思ったより、自意的解釈が行われるケースはそれほど多くなく、政策の変化が必要であると判断される場合、その政策変化をサポートする法令の立法作業が非常に速やかに行われるという点です。
2. 事例: 2008年、内需拡大を通じた経済成長のための10大措置と支援立法
2008年、世界的金融危機を向かえ、中国政府はその危機克服策として、内需拡大を通じた経済成長のための10大措置を発表しました。すなわち、2008年11月5日、中国国務院の温家宝総理は、国務院常務会議を開催し、内需拡大を通じた経済の安定的・早い成長を促進するための措置を議論し、それを発表しました。同会議で温総理は、2008年以来、国際金融市場が急激に変化し、世界経済成長は著しく減少され、国際経済環境の中、不安要素が増加し、中国に対する影響がだんだん現れてくるようになったと明らかにしました。これによって、国内経済運用で新しい状況及び問題、経済成長の鈍化、企業の利潤と財政収入の増加速度の減少、資本市場の賃貸が発生していると強調しました。これに、中国政府としては、フレキシブルで慎重にマクロ経済政策を採択し、積極的な財政政策と緩和された通貨政策を施行し、国内需要を拡大する強力な措置を取ることによって、民生公正、インフラ建設、生態環境建設と収入の低い国民の収入水準を向上するなど、経済の安定的ですばやい成長を促進するため、10大措置を発表しました。
10大措置の内容は、(1)保障性アパートの建設促進、(2)農村民生工程と農村インフラ建設の拡大、(3)鉄道、道路、空港など、SOC事業の推進、(4)医療・衛生、教育、文化等、社会事業の発展促進、(5)炭素排出量減少と生態環境建設工事の推進、(6)自主的な確信と産業構造調整の推進、(7)災害復旧事業の推進、(8)国民たちの収入向上、特に、農民などの低所得層国民の収入向上、(9)付加価値税改革・全面施行、(10)信用拡大を通じた経済成長支援強化などで構成されています。このために、4兆元という莫大な資金投入を決定しました。
このような10大措置をサポートするための具体的な立法措置の例としては、下記のようなことが取り上げられます。
(5)と関連し、国務院販工庁は、「2009年エネルギー節約及び炭素排出減縮業務促進のための通知」を2009年7月19日付けで公布し、同日付で施行する。(6)と関連し、国務院販工庁は、「発展改革委員会等、政府部処の自主的革新成果の産業化促進政策の伝達に関する若干の政策的通知」を2008年12月15日に公布し、同日付で施行する。(9)と関連し、財政部は、「国家税務総局の全国的付加価値税改革を施行する問題に関する通知」を2008年12月19日付けで公布し、2009年1月1日付で施行する。(10)と関連し、中国銀行監督委員会は、「現況、一部の信用貸出監督管理政策調整を通じた安定的経済発展を促進するに関する通知」を2009年1月10日付で公布し、同日付で施行する。
2008年11月5日、中国国務院常務会議を開催し、必要な立法措置を、早ければ、一ヶ月10日以内に、遅くなれば、8ヶ月後に施行しました。もちろん、立法措置の必要のない事項は直ちに施行しました。4兆元という莫大な資金が投入される政策遂行のための極めてすばやい立法速度であるといえます。付加価値税のような重要な税制改革のための措置も、45日以内に施行されました。
3. 結論
筆者が中国関連業務をしながら、もっとももどかしさを感じることは、中国に対する偏見です。
もはや、中国は、「速度の遅い国」ではなく、「速度戦」の国です。もはや、中国は人治の国ではなく、法治の国であり、効率性を追及しているといえます。もはや、中国は、制度的な穴だらけの国ではありません。政策が出来上がり、公布される関連立法措置が取られ、これによって内部指針がサポートし、少なくとも、各地方単位では統一的な規律が行われています。
中国は、行政、立法の両者を最大限効率的に動員し、必要な国家政策を貫徹していく国です。行政部で必要な政策を発表すれば、必要な立法措置も取られます。中国で、または、中国と関連する事業を行おうとすれば、政策方向を検討し、それによる立法措置がいかにとられるかを、常に、感知する必要があります。
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