今まで、企業が金融機関から担保付借り入れ取引をする際に、原資材、在庫品などの動産や将来の売り出し債権など、多様な資産を担保として利用しようとする需要が多くありました。しかし、動産の担保方法として設定される質権は、債権者の占有が要件であったため、担保提供の後、当該動産を継続して利用しようとする債務者のニーズに合わず、譲渡担保の場合、その公示方法が完全ではなかったため、担保権者を十分に保護することができませんでした。なお、売り出し債権を担保として設定使用とする場合、民法で要求される対抗要件である「確定日付のある債務者に対する通知、又は、債務者の承諾」は、多数の債務者を対象とする債権の場合、その手続きが複雑で、時間・費用が非常に費やされるという問題があっただけではなく、担保権が設定されたことを第3者に積極的に開示する方法だけでは、十分効果的であったとはいえない状況でありました。
よって、国際金融取引の増加、UN担保法制統一努力などの対外的要因と、原資材、在庫品や売り出し債権などをより積極的に担保として活用できるよう、制度改善に対する経済界や学界の要求によって制定されたのが、動産債権担保法であります。その主要内容と特に参考にすべき点は下記のとおりです。
1. 基本的に、動産と債権に対する担保権設定を、登記を通じて公示できるようにした制度であります。動産の場合、担保登記簿に登記することにより担保権が「成立」されることに比べ、債権担保権は、担保登記簿に登記することによって第3債務者(担保された債権の債務者)を除く他の第3者に対抗できる「対抗要件」が整えられます。
2. 不動産登記の場合、当該不動産に対して登記簿を備える物的編成主義に従うことに比べ、動産債権担保法による担保登記簿は、人的編成主義に従います。すなわち、担保設定者ごとに登記事項が貯蔵されるため、まず、担保権設定者の名義で登記簿が備えられなければならず、このために、担保権設定者は相互登記を行なわなければなりません。
3. 担保対象資産となりえる動産には、集合動産や将来取得しうる動産も担保登記が可能であり、自動車や航空機の場合、当該特別法(自動車低当法、航空機抵当法)によって、登記、登録が行なわれる前には、本法律によって担保登記を行なうことができます。債権の場合、集合債権及び将来に発生しえる債権も特定が可能であり、金銭の支払いを目的とする債権であれば、担保登記の目的になりえます。
4. 動産債権担保法にもかかわらず、動産と債権に対し、既存の民法によって認められてきた譲渡担保、質権等の担保制度は、そのまま有効に存続します。また、多数の権利者間におけるその優先順位は、設定の順位によります。たとえば、債権質権設定に対する確定日付のある通知があり、他の第3の担保権者によって債権担保登記が終了されている場合、その権利の優先順位は、確定日付と登記の時間的前後によって決まります。
今回制定された動産債権担保権と関連し、投資家の立場から特に注意すべき点は、下記のとおりです。
1. 動産債権担保法は、資本市場法上、証券に対しては適用されません。したがって、株式(株券発行前の株式を含む。)や社債などに対する担保権設定の際には、既存の民法と商法の手続きに従わなければなりません。
2. 動産担保権を設定しようとする者が、担保権設定約定をする場合には、担保目的物の所有如何及び担保目的物に関する他の権利の存在如何に対し、担保権を取得しようとする相手方に明示すべき義務を負担するようにしています。しかし、担保権設定者が明示義務を履行した状態で担保登記を行なったとしても、担保登記自体が担保権設定者の担保目的物の所有権を公示してくれるものではありません。したがって、担保権設定者が目的物に対する所有権を保有しているか否かに対する十分な調査が必要となります。
3. 動産債権担保法によって担保登記された動産や債権に対し、担保権自体の善意取得は認められません。但し、対象物件である動産に対しては、民法の原則によって善意取得が認められえます。たとえば、一定な場所にある在庫品に対し、担保設定権者が動産担保権を設定してから、その中の一つの在庫品を無断で善意の第3者に譲渡(占有移転)した場合、民法上、善意取得の要件を満たす第3者は、該当在庫品に対する所有権を取得することが可能であり、これによって、担保権者に対抗することができるようになります。しかし、在庫資産に対し、担保権を設定する権原のない者(すなわち、所有権のない者)が、在庫資産全体に対して動産債権担保法によって担保登記を終了させたとしても、その担保登記を善意で終了した者は、それ自体だけでは担保権を善意取得することはできません。担保登記の信頼が認められないからであります。
4. 担保権の設定された動産は、私的実行が可能です。但し、後順位権利者が私的実行を行なおうとする場合、先順位権利者の同意がなければならず、後順位権利者が先順位権利者の私的実行に反対する場合には、清算金の支払いを受ける前まで後順位権利者の競売請求が可能となります。
5. 債権担保権の場合、債務者に対する対抗要件を整える方法は、民法と差異があります。すなわち、民法によれば、指名債権の場合、債務者に対する通知や債務者からの承諾を得て債権質権の対抗要件を整えるものとは異なり、担保権者や担保権設定者が担保権の設定された登記事項証明書を債務者に渡す方法をもって、債務者に対する対抗要件を整えることになります(これとは異なった形式の通知は、対抗要件として許容されないことに注意する必要があります。)
今後、業界において、動産債権担保法を利用する貸出取引が活性化されることを期待します。