テイン・セインミャンマー大統領は、ミャンマー外国人投資法(以下、外国人投資法)改定案の公布を拒否し、再議を要求するとともに、同法案をミャンマー連邦議会に戻しました。当初、ミャンマー政府の積極的な解放意思が反映される形で、外国人投資法が9月以内に改定される見通しでしたが、ミャンマー国内会社の利益保護などの理由から、連邦議会における承認が遅れました。大統領が、9月7日、連邦議会の承認を得た外国人投資法改定案に対する公布を拒否したもっとも大きな理由は、改定案が外国人投資を誘致するにそれほど開放的ではないということです。
もっとも争点になっている条項は、外国人単独投資が制限される事業は合弁投資形態のみで投資が可能であり、合弁答申の場合、外国人の持分を50%で制限するという条項です(外国人投資法改定案第10(a)条(iv)。外国人投資家の場合、投資対象会社の持分を50%までのみ取得可能であれば、外国人と内国人がそれぞれ50%ずつ取得した場合の事業運営の際には、経営権をめぐって対立状態が持続する恐れがあるとの批判がありました。これによって、外国人単独投資が制限される場合にも、外国人の取得可能持分比率を柔軟に定めることができるよう、法律条項を改定することが望ましいとの意見が強く台頭しています。
次に、11の事業分野に対し、外国人の投資を制限するか又は禁止している外国人投資法改定案は、第4条も問題となっています。
外国人投資が禁止されるか、制限される分野 |
(1) 民族の文化的伝統と慣習に害を与える活動
(2) 公共の健康に影響を与える活動
(3) 天然資源と天然環境に影響を及ぼすか、危害を及ぼす活動
(4) 有毒性廃棄物を国内に搬入する活動
(5) 国際条約によって、有毒性化学物質を生産する工場、又は、有毒性化学物質を使用する活動
(6) 内国人が行えるように、委員会が定めた製造、サービス業
(7) 研究中、あるいは、使用許可を得ていない技術・医薬品などを国内に搬入する活動
(8) 内国人が行える農業及び長・短プランテーション
(9) 内国人が行える畜産業
(10) 内国人が行える漁業
(11) 国境から10マイル以内の地域において運営される外国人投資事業 |
問題は、これらの分野に対する定義が極めて曖昧であり、何を禁止しているかに対する予測可能性が低いとのことです。大統領は、禁止分野に対する誤解の余地をなくすために、上記の条項を改めて定義することを要求したと知られています。
その他に、外国人に対する市場開放に対し、保守的な性向の議員らによって議会で上程された「外国人投資家5百万ドル以上投資要件」条項は、ミャンマー政府の強力な反対によって、連邦議会の最終承認案からははずされました。類似した事例を探しにくいほどの強力な外国人投資制限措置という点から、通過は難しいのであろうという予想通り、議会の壁を越えなかった模様です。但し、技術的な専門性を必要とする事業に投資し、熟練労働者を雇用する場合、事業開始以後、最初の2年までは採用人員の25%以上、4年までは50%以上、そして、6年までは75%以上のミャンマー現地人を雇用しなければならないという条項(外国人投資法改定案第24(a)条)は維持されました。
外国人投資法の公布が遅延されることによって、投資家の心理が萎縮し、不安感が増すのも事実です。ただ、今回の外国人投資法公布の遅延は、連邦議会が、政府の外国人投資法改定案の当初案より保守的な内容をもって最終承認を行ったからであります。よって、以後の10月3週目に開かれる議会に上程される法案は、現在、連邦議会が承認した改定案より、外国人投資により開放的な法案になりうる可能性が高いのです。
2012年9月、連邦議会が承認した外国投資法改定案の主要内容 |
(1) 外国人投資が禁止されるか又は制限される分野の定義(上記の表を参照)
(2) 外国人投資制限分野の場合、合弁会社形態で持分投資を50%までのみ許容
(3) 銀行で受容できる外貨で投資金額の登録可能
(4) 法人税免除期間を5年に拡大すること、及び、輸出製品に対する商業税減免、輸出のための原資材輸入に対し関税減免
(5) 不動産の使用と関連し、最初50年の賃貸のあと、10年ずつ2回延長可能、民間土地賃貸可能
(6) 投資委員会の許可条件付で、外国人の持分(株式)譲渡可能
(7) 雇用関連、非熟練労働者はミャンマー現地人のみ採用可能であり、熟練労働者を雇用する場合、設立以後2年までは該当業務人員の25%、4年までは50%、6年までは75%を雇用しなければならない。
(8) 公共安保、経済、環境、社会的恵沢と関連し、公益に影響を与える大規模投資事業に対しては、政府を経て連邦議会に要請しなければならない。 |